開催報告〉11/29(土)「学校・地域の協働で 豊かな学び環境をつくる ~コミュニティ・スクールと地域学校協働活動を両輪として~」

当法人は、持続可能な地域社会の実現に向けて、市民活動団体・行政・企業など、多様な機関・団体をつなぎ、セクターを超えた顔の見える人間関係づくりを目的に、2022年度よりSDGsネットワーク事業を展開しています。

第4回のテーマは、前回に続き「コミュニティ・スクールと地域学校協働活動」です。ゲストから具体的な事例を交えたお話を聞いた後、学校運営協議会の一層の充実を図るとともに、今後の「地域学校協働活動」構想の具体化に向けたアイデアを語り合いました。協働活動に向けて顔の見える関係づくりについても活発な意見交換を行いました。

日 時:2025年11月29日(土) 14:00~16:30
会 場:ちがさき市民活動サポートセンター フリースペース大
参加者:16名

ゲストスピーカー

国立教育政策研究所フェロー、文部科学省中央教育審議会生涯学習審議会専門委員を務める。
現在、雑誌社会教育にて「新・社会教育行政職員のための施策立案の『虎の巻』」を連載中。


1. 学校と地域の連携・協働がもたらす四つのメリット

  • 生きる力の育成
    地域住民との交流を通じて、多様な経験を積み、学校内だけでは得られない「生きる力」が育まれます。
  • 地域への愛着の芽生え
    地域住民と交わることで、地域の良さに気づき、愛着が芽生えます。特に人口減少に悩む地域にとって、これは将来の地域存続に関わる死活問題であり、幼い頃からの地域との接触体験は極めて重要です。
  • 社会性とコミュニケーション能力の向上
    連携活動を積極的に始めた学校では、「子どもたちが元気に挨拶するようになった」といった変化が見られ、社会性やコミュニケーション能力が培われます。
  • 学力向上の基盤構築
    地域の方が積極的に学校に入り、活動を支援している学校は、そうでない学校に比べて学力状況調査の点数が約10ポイント近く高いという古いデータが存在します。この背景には、地域との交流を通じた「学びへの意欲」の向上や、大人から学ぼうとする気持ちの高まりがあると考えられます。
  • 自尊感情の向上(ボイスシャワーの絶大な効果)
    筆者は、非行傾向のあった生徒が地域ボランティア活動を通して自尊感情を高め、生活態度を改めた経験から、地域住民からの「褒め言葉(ボイスシャワー)」の絶大な効果を確信しています。教員が10回褒めることと、地域の方が1回褒めることの効果は、感覚的に10倍違うとされ、地域の力で子どもの「自分の大切さに気づく」ことを促すことが、地域学校共同活動の最大の目的の一つです。
    • 地域への理解の深化
      地域住民が学校に入ってくることで、地域の現状や特性、人材を理解することができます。
    • 授業内容の充実
      地域の素材を活かした授業が展開できるようになり、教育課程の質が向上します。
    • 成功体験による理解
      地域の方との協働で子どもたちが変わる姿を見ることで、教員も連携の意義を深く理解し、教育活動への熱意が増します。
    • 生涯学習活動
      地域の方々が自身の人生経験や技能を子どもたちに教えることで、これまでの人生の成果を活かす「生涯学習活動」の場となります。
    • 地域コミュニティの活性化
      学校支援を通じて大人同士が集まる機会が増え、コミュニケーションが活発化し、「大人の顔が見える関係」が構築され、地域コミュニティが活性化します。
    • 地域の教育力の向上
      子どもたちが地域の大人の顔を覚え、叱られたり褒められたりする経験を通じて、地域全体の教育力が向上します。
    • 教育課題の解決
      いじめ、不登校、生活習慣の乱れなど、これまで学校が背負ってきた課題を、地域と協働することで解決へと導きます。また、地域の方の協力によって、保護者からのクレーム(モンスターペアレンツ問題)への対応負担が軽減された事例も報告されています。
    • 信頼関係の構築と機運醸成
      地域との信頼関係が構築され、地域と学校が一体となって何かを成し遂げようという機運が生まれます。
    • 教育課程の質向上
      教員が教室で話すだけでなく、地域の方が実体験や専門知識を伝えることで、教育課程の質が向上します。

    2. コミュニティ・スクール(CS)の機能と本質

    CSは、上記のような連携・協働の効果を、意図的かつ組織的に、継続して実現するための「仕組み」として位置づけられます。

    (1) コミュニティ・スクールの本質

    CSを一言で表すと、「学校づくりのために地域の方々に一緒に汗をかいてもらうための仕組み」です。CSは、単に意見を聞くだけの場ではありません。委員が学校運営に参画し、活動に主体的に関わることで、学校を共に創り上げていくという点が本質です。

    (2) 学校評議員制度との決定的な違い

    CSの基盤となる学校運営協議会は、従来の学校評議員とは、その性格、権限、体制において全く異なります。

    学校運営協議会は、以下の3つの権限を持つことが特徴です。

    1. 学校運営方針の承認:校長が作成した学校運営方針を承認する。
    2. 教育委員会や校長への意見具申:学校運営について意見を述べる。
    3. 職員の任用に関して教育委員会への意見具申:特定の個人ではなく、学校の課題解決に資する人材 (例:英語教育強化のためのネイティブスピーカー、地域連携推進のための社会教育主事有資格者など)の配置について、教育委員会に意見を述べる。

    (3) CSの真の目的

    CSの目的は、一部で言われる「地域づくり」ではありません。CSの最初のとっかかりは、あくまで「学校課題の解決」であるべきです。学校の課題を解決するために地域の方に協力してもらうという構図を教職員全体が理解することで、教員の主体的な協力が得られます。その結果として、地域づくりにつながっていく、というのが正しい理解です。

    3. コミュニティ・スクールを成功に導くプロセス

    CSを形骸化させず、実効性のあるものにするためには、適切なプロセスを踏む必要があります。

    1. テーマの明確化:漠然とCSを始めるのではなく、「この学校の○○という課題を解決する」という具体的なテーマを設定します。
    2. 全教職員への説明と合意形成:校長は、設定したテーマとCS導入の意義を全教職員にきちんと説明し、組織全体での「自分事」としての合意形成を図ります。
    3. テーマに合った委員の選任:最も重要な要素の一つです。テーマ(例:ICT活用)に対して、その分野の知見を持つ人材(例:企業OB)を委員として選任します。地域の付き合いだけで委員を選ぶのではなく、「一緒に汗をかいてくれる人」を活動内容に沿って選ぶことが重要です。
    4. 「熟議」の実施:評議員会のような校長の説明を聞くだけの会議ではなく、設定されたテーマについて委員同士が真剣に議論する「熟議」の場を設けます。この議論のプロセスを通じて、委員は自らの役割を理解し、活動が「他人事」から「自分事」へと変化します。
    5. 活動の具現化:熟議で決まった良い意見を放置せず、必ず具現化し、実行に移します。これにより委員のモチベーションが維持され、活動が停滞することを防ぎます。
    6. 評価(可視化):活動が終わった後、単に「良かった」で終わらせず、「生徒の何がどう変わったのか」をデータや事例として可視化(評価)し、PDCAサイクルにつなげます。

    4. 工業高校におけるCS実践例

    私が勤務する工業高校では、CSを導入することで、学校が抱える深刻な4つの課題の解決を目指しました。

    1. 志願者数の減少:工業高校の魅力が中学生に伝わらず、定員割れが続いている。
    2. 生徒の多様化:学力差の拡大、コロナ禍の影響によるコミュニケーション能力の低下、自尊感情の低さなど、生徒指導上の課題が増加している。
    3. 工業技術の高度化への対応:古い実習機器、教員の知識アップデートの困難さなどから、最新の高度技術に対応しきれていない。
    4. 統合への準備:数年後の隣の農業高校との統合、学校の歴史と伝統を残していく必要性。
    • 技術課題への対応:産業技術センター職員、民間企業技術者など、工業技術のプロ
    • 魅力発信(志願者増):報道関係者(新聞記者)を委員に加え、学校の取り組みを積極的に発信する仕組みを構築。
    • 地域連携・統合準備:市民共同活動NPO、まちづくり指導者、行政職員、さらには統合予定校の校長も委員に加え、広範囲の連携と将来を見据えた準備を進めました。

    特に新聞記者の参画は、学校の取り組みを地域に伝え、学校の魅力を発信するための大きな力となり、CS活動の認知度向上に貢献しています。

    5. 結びに:共通理解こそが未来を創る

    学校と地域の連携・協働、そしてコミュニティ・スクールは、単なる制度や流行ではありません。
    子どもたちの成長と学校の未来を切り開くための、教員と地域住民の共通理解と、それを実現するための組織的・意図的な活動の枠組みです。

    地域の方々が「面倒だ」「手間だ」と感じ、教員が「負担だ」と感じる原因は、連携の真の意義が共有されていないことにあります。本質的な効果を理解し、CSの本質である「一緒に汗をかく」という精神に基づき、共通の教育目標に向かって熟議を重ね、活動を具現化していくこと。それこそが、学校教育の課題を解決し、地域社会を豊かにする、未来の学校像を実現する鍵となります。

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