【開催報告】第2回異業種楽習会 内海宏さん講演会「“農福商連携”がまちを変える!」

●日 時:2018年3月12日(月)19時~21時
●場 所:翔の会研修センター ●参加者:19名(第2部交流会参加者:14名)
●テーマ:“農福商連携”がまちを変える!
●講師:内海宏さん((株)地域計画研究所代表取締役)
横浜市まちづくりコーディネーター、都市農地活用・保全アドバイザー、NPO 法人横浜プランナーズネットワーク元理事長、NPO 法人アクションポート横浜理事、NPO法人まちづくり情報センターかながわ理事長、社会福祉法人理事・評議員、横浜国大・横浜市大・フェリス女大非常勤講師などとして活動。専門家として「さまざまな立場の住民が地域で豊かに暮らせる仕組み」にこだわり、人口減少や少子高齢化に伴う地域課題の解決のために地域に出向くことが多い。コミュニティづくりや地域活性化、高齢者の見守り等の地域福祉の推進、空き家活用や農あるまちづくりなどの地域支援に奮闘中。

●内容

・ここ数年、農業の担い手不足と障がい者等の雇用促進という二つの課題解決を図る“農福連携”(農業と福祉の連携)の取り組みが広がり、昨年3月には全国農福連携推進協議会が発足しました。最近では、“農福連携”に加え“商福連携”や“農商連携”など異分野連携の動きが盛んになっています。第2回異業種楽習会では、長年神奈川県を中心にまちづくりコンサルタントとして活躍している内海宏さんを講師にお招きし、「“農福商連携”がまちを変える」というテーマで講演をしていただきました。

・まず、内海さんは、人口構成(エリア別の子育て世代比率・高齢化比率など)のグラフ・地図を示しながら、茅ヶ崎市は横浜市と比較して20代・30代の人口が少ないこと。また、人口増と人口減の地域がまだら模様になっていることから、地域の中で優先して取り組む施策(子育て支援と高齢者支援のどちらに比重を置くべきか等)について合意形成するのが難しくなる傾向がある、という話がありました。

・続いて、横浜市内の“農福商連携”に関する実践事例として、「農業×福祉(高齢者等)」、「農業×福祉(子ども等)」、「農業×商業」、「福祉×商業」の計17事例をご紹介いただきました。筆者は、沢山の事例のうち、(社福)開く会の活動に興味を持ちました。同会は、横浜市営地下鉄「下飯田駅」近くに約1,000坪の農地を確保して、ハーブ園と小麦畑からなる障がい者の就労支援施設を設置。農地で収穫した小麦を使ったパン工房とイタリアンレストランも経営しています。同会では、障がい者がパワフルに働く姿が植物と一体となって一つの景色を形づくる場所を目指しているそうです。

・内海さんの講演を聴きながら感じたことは、「“農福商連携”は目的ではなく結果である」ということ。地元で農業を続けているうちに、農業の担い手と地域に暮らす高齢者、障がい者、子どもたちが出会い、自然な流れの中で“農福連携”が実現していく。大事なことは、農業と福祉をつなぐ制度を新設するのではなく、それぞれのフィールドで活動する人同士の顔の見える関係をつくること。

・第2部の交流会には、福祉専門職、農業関係者、商店街の商店主さん、自治体職員など14名が参加。様々な分野で活動する人がバランスよく参加してくださったおかげで、ねらいどおりの異業種交流が実現しました。この場で知り合いになった参加者同士が情報交換を続ける中で、将来、“農福商”連携の動きが生まれることを願っています。

●“農福商連携”の具体的な事例

1、農業×福祉(高齢者等)の4事例
事例1は「男性高齢者の見守りをねらった野外サロン(南区六ッ川連合)」。連合自治会福祉部と老人会が連携し、市有地を有料で借り受けて農園として利用。週1回の農作業と年2回の収穫祭により、引きこもりがちの男性高齢者の参加が多く、子ども・親・高齢者の世代間交流の場となっている。事例2は「荒井沢緑栄塾楽農とんぼの会~栄区」。里山保全の団体が農地を開墾し、障がい児や大学生も農作業を手伝う。収穫した麦を使って地域ケアプラザ等でそば打ちを実施し、人気事業として定着。事例3は、「今宿コミュニティガーデン(旭区)」。市有地を利用して、農や緑のエコガーデンを通して、多世代交流のまちづくりを推進。事例4は、「瀬谷ふれあい農場(瀬谷区)」。元農家の地主と高齢者グループホームを運営するNPO法人が協働提案事業として運営。途中からNPO法人楽竹会や県立瀬谷西高校が趣旨に賛同して参画。

2、農業×福祉(子ども等)の5事例
事例5は「にこまるソーシャルファーム(磯子区)」。NPO法人ヒューマンフェローシップが農地所有者と期限付きの借地契約を結ぶ。借地料は横浜市子ども青少年局の若者就労支援事業の受託料から支払う。事例6は「杜の郷及び子ども家庭支援センター(泉区)」。「杜の郷」は横浜市が開設した児童養護施設。30人の入居者と職員が、施設内敷地を利用して稲作と野菜づくりを実践。事例7は「いずみ野小の多彩な農食活動(泉区)」。この地区は和泉川が流れる山家地区と呼ばれ、米、野菜、果物、酪農、養鶏など多彩な農業、農産物直売所が多い。「いずみ野サポーターズ」が地域と学校のつなぎ役を果たす。事例8は「水田や森等の里山環境を使った自然体験プログラムを展開する子どものワークショップ(青葉区)」。寺家ふるさと村「四季の家」を拠点に、区内の保育園児・小学生などを対象とした体験プログラム(こども道場、たんぼパーク、月あかり夜の森など)を展開。事例9は「民生委員有志が運営する子ども支援農園(栄区)」。

3、農業×商業の3事例
事例10は「朝市サロン」。南区の野外サロンを担う高齢者等が買い物に困っている高齢者を対象とした朝市を開催。トン汁等を提供して利用者に世間話をする機会を提供している。事例11は「収穫体験農園のユアーズガーデン(門倉農園)」。年間を通して農業体験ができることが特徴。事例12は「社会福祉法人開く会(泉区)」。横浜市営地下鉄「下飯田駅」近くに約1,000坪の農地を確保。イタリアンレストランとパン屋、ハーブ園や小麦畑からなる障がい者の就労支援施設を設置。障がい者がパワフルに働く姿と植物と一体となって一つの景色を形づくる場所を目指す。

4、福祉×商業の5事例
事例13は「ぽかぽかプラザ(瀬谷区)」。県営阿久和団地のショッピングセンター内空き店舗に、地域交流スペース、地場生産品販売所、デイサービス施設を整備。高齢者、障がい者、子育て世代などが気軽に立ち寄り、地域の福祉活動や買い物等を通じ交流ができる。事例14は「お互いさまネットいこい(栄区)」。地域のスーパー・コンビニが撤退した後、住民たちが青空市を始めた。その後、NPO法人お互いさまネット公田町団地、栄区所役所、UR神奈川地域支社の3者で協議会を結成し、安心センター(一人暮らし世帯等安心生活支援モデル事業の委託)やサロンを運営。事例15は「ほっと・さこんやま(旭区)」。連合自治会、地区社協、地区民児協等が連携し、NPO法人オールさこんやまを設立。高齢者等の居場所、子どもの学習支援「さくら教室」、子育てプレイルームを運営。事例16は「学生サークルによるCaféここたの、とれたの(国立市)」。商店会・一橋大・国立市・市民等がNPO法人を立上げ、富士見が丘団地商店街の空き店舗を活用して、カフェ「ここたの」と野菜直売を含む特産品販売所「とれたの」を運営する。カフェ運営に大学教員の関与はなく、学生サークルが主体的に運営に関わる。事例17は「中川駅前の商店街活性化をはかるぐるっと緑道の取組(都筑区)」。東京都市大学主催の商店街活性化ワークショップとその後の研究会がきっかけとなり、地域にコミュニティカフェがオープン。同時並行でNPO法人が設立され、都市緑化や多世代交流等の事業に取り組む。

小山 紳一郎